
野菜売り場で見かけるクレソンの多くは、水耕栽培ものらしい。栄養を含んだ水溶液で育てるやり方だ。しかし、クレソン名人 渥美さんのクレソンは畑に渓流のせせらぎをつくり出し、野山に自生するのと同じ環境で栽培されている。ビニールハウスの中に渓流をつくり出すのは重労働。クレソンは水の流れがあるところに繁茂するので水が流れ続けるよう高低差や水流を毎日、微調整する必要がある。そこまで苦労して渥美さんが、野生に近い環境でクレゾンを育てる理由はひとつ。土耕栽培、つまり畑の上に水を流して育てたクレソンは香りが濃くて美味しいからだという。



じつは、名人のクレソン畑には、もうひとつの秘密がある。それは静岡県を流れる天竜川の冷たい水を畑に引っ張ってくる用水が整備されていること。これにより、24時間、昼夜を通して冷たい水を畑に送り込むことが可能になっている。またクレソン栽培は、使用が許可されている農薬が少なく、それ以外は使わないし、使えない。そんな環境を知ってかどうか、渥美さんのクレソン畑にはオタマジャクシがいっぱいあふれ、夏の時期にはカエルが集まってくるという。カエルの鳴き声がうるさくて付近の人に迷惑でないかというのがクレソン名人のもっぱらの悩みらしい。
